日本歌人クラブからのお知らせ


 日本歌人クラブによる声明

   日本歌人クラブから出された声明を掲載しています。


日本学術会議の新会員任命拒否に反対する声明

2020年10月26日

現代歌人協会  理事長 栗木京子 

日本歌人クラブ  会長 藤原龍一郎

 

 

 私たち現代歌人協会と日本歌人クラブは、菅義偉首相が、日本学術会議の6名の新会員の任命を拒否したことに、強く抗議します。

 

 日本学術会議の新会員は、「(選考委員会の)推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。」(日本学術会議法)と定められており、「これは、学会あるいは学術集団から推薦に基づいて行われるので、政府が行うのは形式的任命にすぎません。」(第98回国会 参議院文教委員会 昭和58年5月12日)と、中曽根康弘内閣総理大臣(当時)も明言しています。

 

 今回、菅義偉内閣総理大臣が任命拒否したことについて、〈日本学術会議法の解釈変更を行ったものではない〉という主旨の答弁を、10月7日の衆議院内閣委員会で内閣府副大臣が行っていますが、これは明らかに非合理的な発言です。

 

 また、6名の新会員の任命を拒否した理由を、菅政権は明確にしていません。これは不誠実な態度です。

 

 このような、非合理かつ不誠実な政治の言葉が許されるならば、日本語ひいては国民相互の信頼性が大きく毀損されます。私たち、短歌という日本古来の言語芸術に関わる表現者は、こうした言葉を看過できません。物事の道理にそった言葉を尊重する政治を、私たちは切実に求めてきました。

 

 日本学術会議は、戦時中に、科学者や研究者が戦争を推進する国家に協力してしまったことへの反省に基づいて設立されました。そのため、「政府から独立して職務を行う『特別の機関』」と位置づけられています。これは、日本国憲法第23条で定められた「学問の自由」を基盤としています。今回の任命拒否は、学術会議の独立性、さらには「学問の自由」を脅かす政治的手段として見逃すことができません。

 

 短歌の世界でも、昭和15年(1940年)に大日本歌人協会が、国家に協力的でない会員がいると非難されて解散に追い込まれる事件がありました。今であれば、これは日本国憲法第21条「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」に抵触します。表現者にとって、この条文は、個々の自由な言語表現を保障するとともに、現代歌人協会や日本歌人クラブのような職能機能を含む短歌活動の自由を保障するものでもあります。

 

 くしくも今年は、大日本歌人協会の解散から、80年になります。私たちはこのような過去を忘れず、科学者や芸術家などの文化団体に対する政治の介入に、厳しく抗議しなければならないと考えます。

 

 今回の任命拒否をきっかけにして、政府に逆らう学者や研究者は排除すべきだ、という短絡的な言説も出てきました。ここから、政府に逆らう表現者(歌人を含む)は排除すべきだ、という風潮までは、わずかな距離しかありません。それは、日本ばかりでなく、世界の歴史を振り返れば明らかです。すなわち国の健全な学問や文化の発展を根本から瓦解させるものとなります。

 

 任命拒否を速やかに撤回し、今回の問題を分かり易い言葉で国民に説明してください。政治に対する健全な批判が自由闊達に行われる社会を実現することを、私たちは菅政権に要請します。

  

以上


高校新学習指導要領・大学入学共通テストについての声明

2019年5月10日

現代歌人協会  理事長 大島史洋

日本歌人クラブ  会長 三枝昻之

 

 

2022年度から施行される新「学習指導要領」と、2021年から実施される「大学入学共通テスト」は、高等学校「国語」の教育を大きく変えようとしています。

 

これらの改革は、以下に述べるように、短歌を含む現代文学を軽視したものと言われてもしかたのない内容となっています。

 

1. 新指導要領においては、主に1年生で履修することになっていた「国語総合」(標準で週に4時間)が「現代の国語」(2時間)、「言語文化」(2時間)に分かれます。指導要領解説においては、「現代の国語」では、話し合い、意見発表、資料やデータの読み方、など実用的な言葉について学ぶことがうたわれています。「言語文化」は主に文学を扱いますが、「読むこと」の授業の中で、古典は40~45単位時間かけて扱うのに対して、近代以降の文章は20単位時間程度扱うこと、という配分が決められています。文学を扱う時間が週に2時間の「言語文化」に限定されるだけでなく、さらにこの時間の中の限られた一部を使って、明治以後の文学を学習することになるのです。伝統を受け継ぎ、今まさに豊かな様相を呈している短歌が授業で取り上げられることは、ますます難しくなると想定されます。

 

2. 同じく新指導要領において、主に2年生、3年生で履修することになる選択科目でも、現代文学や古典を扱う科目は用意されていますが、3に述べる大学入試(国語では資料の読み取りなどが増える)に対応することを考え、実用的な言葉を扱う科目を選ぶ生徒が多数を占めると考えられます。

 

3. 「大学入学共通テスト」の試行調査における「国語」問題では、現代国語の問題として、著作権法や生徒会活動規約など実用文の論理的読解が大問として出題されていますが、これはノウハウ的な能力偏重の教育を促すことになると懸念されます。

 

4. 高校教育では、生徒たちが心の自由を保ち、創造力を養ってこれから社会人として生きる力を身につけることがたいせつであり、現代国語がその役割の大きな部分を担っています。文学だけの問題ではなく、近未来のこれからの社会において人々がよりよく生きるためには、現代の文学に向き合う時間のなかから、この「創造力」「生きる力」を培うことが重要です。

 

すでに、日本文藝家協会では、「高校・大学接続『国語』改革についての声明」を2019年1月24日に出して、この問題に取り組んでいくことを明言しています。現代歌人協会と日本歌人クラブでは、この国で最も伝統ある文芸である短歌というジャンルを今に担う独自の立場から、この問題に取り組んでいくことをここに表明いたします。

 

私たちは、古事記・日本書紀や万葉集以来の伝統の上に立って、新しい時代にふさわしい文学・文化を築き続けることを自分たちの役割と思っています。そのためには、短歌を含む近代文学・現代文学の基礎を高校時代に教育することが必須と考えます。

 

この問題は、歌人に限らず、また文芸家に限らず、広く日本語を使い、日本文化を土壌とする社会全体の問題、これからの社会を実り豊かなものにしたいと考える日本人全体の問題と考えます。ぜひ多くの方々に賛同していただき、いっしょに良い方向性を見いだしていきたいと切望いたします。

 

以上